美術を通して、これからの時代を生き抜く力を磨く!
美術工芸科
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【第42回卒業式】
3月1日午前,卒業式を挙行いたしました。
新型コロナウイルス感染症拡大防止の対策を徹底し,保護者の皆様のご理解ご協力をいただきながら,多くの方に祝福されて心温まる卒業式となりました。
式終了後に引き続き「卒業生の時間」で,3年間の思い出の写真と教職員のメッセージを綴った卒業生制作の映像を上映しました。また,サプライズで担任への花束贈呈がありました。
卒業生の皆さん,保護者の皆様,本日は誠におめでとうございました。
第42回卒業式 式 辞
春浅き鴨川の水音に、三年(みとせ)の月日の流れを感じる今日の佳き日、三年生の巣立ちの日となりました。
本日、京都市教育委員会をはじめ、PTA役員の皆様、並びに、平素よりご支援をいただいております、美工交友会、京都パレスライオンズクラブ、銅駝自治連合会よりお越しくださいましたご来賓の皆様、そして多数の保護者の皆様のご臨席を賜り、第42回京都市立銅駝美術工芸高等学校卒業式を挙行できますことを、心より感謝し、教職員を代表いたしましてお礼申し上げます。
先ほど、88名の生徒の皆さんに、卒業証書を授与いたしました。卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。美術専門高校での3年間の学びを全(まっと)うし、ここに晴れて卒業の日を迎えられたこと、心よりお祝い申し上げます。皆さんは明治13年、1880年に創立された京都府画学校以来141年の歴史と伝統をもつ美術学校の卒業生として、社会に巣立ちます。その誇りと大きな志をもって、それぞれの新しい道を歩み始めてください。
保護者の皆様、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。お子様は本校で確かな力を身に付けられ、立派に成長されました。この3年間、本校の教育活動に深いご理解と温かいご協力を賜りましたこと、高い所からではございますが厚くお礼申し上げます。
さて、本日卒業を迎えられた皆さんにとって、二年前に新型コロナウイルス感染症が発生し、世界的なパンデミックとなり、「希望を創る」場所であるべき学校もその影響を受け、皆さんの生活は一転しました。この二年間のコロナ禍において、臨時休校や行事の中止など教育活動は大きな制約を受け続けました。
本当に辛かったですよね。皆さんが一年生の時に実施する予定であった瀬戸内方面の美術研修旅行、行きたかったですよね。二年生に延期しましたが、結果的に実施できず、最初で最後の宿泊行事が叶わなかったことが、本当に辛い思い出となってしまいました。二年生の時の体育祭や文化祭、やりたかったですね。他にも沢山、高校生活でしかできないことが実現できず、皆さんは我慢し続けて、どうしようも無い思いを呑み込んできたことだと思います。最終学年で実施できた文化祭は、本当に嬉しかったですよね。皆さんの若さ溢れ出るエネルギーに圧倒され、心が震えました。美工作品展に向け遅くまで制作に打ち込んでいる姿を見て、心が温かくなりました。素晴らしい作品ばかりでした。いろいろなことがあった三年間ですが、心の整理がつかず、中にはまだ納得できない人もいるかもしれません。皆さんに寄り添って、一人ひとりの声を聞いていたら、もっと何かできたのではないかと今でも考えてしまします。
でもこのような状況の中で、皆さんは私たちと一緒にその課題に向き合い、様々な気持ちに折り合いをつけながら、今できること、やるべきことに精一杯力を出し切って、学校生活を大切に過ごしてくれました。
その姿は本当に立派で、頼もしく見えました。日々の教育活動を止めずに続けらることができたのも、皆さんが学校に信頼を持ち、協力をしてくれなければ、成りたなかったことでしょう。本当にありがとう。勿論、保護者の方をはじめ、関係する方の協力もあってのことだと思っています。学校を代表しまして、皆様に感謝申し上げます。
今日の旅立ちの日に,皆さんに伝えたいことが二つあります。
一つ目は「人間はどう生きるべきか」という問いです。コロナ禍で教育活動が思い通りにならない状況において、対応を迫られた日々を送る中、私の頭には一つの作品が思い浮かんでいました。それは「我々はどこから来たのか?我々は何者か?我々はどこへ行くのか?」というタイトルの作品です。印象派の画家、ポール・ゴーギャンが晩年タヒチで描いたものです。彼のもっとも有名な作品のひとつで、彼の人生観が描かれており、タイトルの答えは見るものにゆだねられています。
今、社会は先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態にあると言われています。気候変動や感染症の世界的拡大の問題など、人類は大きな課題に直面しています。また、経験したことのない災害が頻発、国際社会は不安定化し、社会は分断され、差別やいじめなどの社会問題も世界的に起こっています。これらの問題を直視し、分析し、解決策を模索する過程で必ず直面する問いが出てきます。それが「人間はどう生きるべきか」という問いです。
この問いに向き合う時、皆さんにはこの学校で培った強みがあります。本校に入学後、美術専門科目だけでなく普通教科の学び、探究活動、クラブ活動、ボランティア活動や様々な学びの中で、「観る」「感じる」「考える」「表現する」活動に日々取り組んできました。感性や思考力、創造力を発揮して考え抜くこと、そして他者との対話や協働によって自分を高めていった経験があります。この学校で学んできたイマジネーションとクリエーションは、これから先、皆さんが人生を歩んでいく上で、道に迷った時、あるいは見失った時に、勇気と希望を与え、進むべき道を明るく指し示してくれるものと信じています。
二つ目は皆さんに、こんな時代だからこそ贈りたい言葉があります。それは「余白」という言葉。私は日本画を描いてきたのでこの言葉が身体に染み込んでいます。日本絵画の作品には「余白」、つまり何もモチーフを描いていないところを残している作品が多く見られます。勿論余白がなく、端から端まで埋め尽くしているような作品もありますが、私は絵画をはじめ、建築や文章にも余白があり、自分の感じたことがその作品に入り込み、融合することで新たな価値観が生み出されるものがとても好きです。この「余白」を意識することは、絵を描く時だけでなく、私の人生観そのものになっています。
その「余白」が今まさに必要とされています。私たちは常に何かに追われ、考え続けなければならない毎日を送っています。時間に追われ、合理性や機能性ばかりを追求していると、気持ちが疲弊してきます。だからこそ一見何も生み出さないような、生産性のない時間。あえてこの「余白」の時間を作ってほしいと思います。私も余白を作り出すため、休日に御所のベンチに何時間も腰かけ、木々を眺めるだけの時間を作ったりしています。特別な目的を持たずに一人で過ごす時間。本を読んだり、好きな音楽を聴いたり、料理をしたり、友人と遊んだり、どんな行動でもいいのです。考え事をまとめたり、気持ちを落ち着かせたり、情報を整理したり、新しい発想を生むのに役立ちます。また、心に「余白」があると、自分を大切に思うことができ、他者に優しくなります。皆さんは皆クリエーターです。ぜひ「余白のある人生」を心がけてください。
皆さんがこの三年間、本校で学んでいる姿を見続けてきましたが、本当に輝いていました。本校での学びを通して、頼もしく成長した皆さんは、本校の誇りです。
最後に、この先皆さんはそれぞれの道を進んでいきます。この高校時代に培った強みを、ぜひ引き続き磨いてください。勿論、違う強みを見つけて磨くのも良いでしょう。磨けば必ず自分色に輝きます。ただ皆さん一人ひとりの顔や身体や心が違うように、強みも違います。自分の特性や才能を見極めることが大切です。そして、見極めたらがむしゃらに挑戦し続けてください。行動した分だけ必ず将来の自分に返ってきます。人と比べず、自分自身を信じて、前に進んでください。そして保護者の皆様、お子さんを信じて、サポートし続けていただけないでしょうか。保護者の皆様の存在は、子供たちの安らぎであり、心許せる唯一の場所なのです。
この学舎を巣立つ日、無限の可能性をもった皆さんに心からのエールを送り、お祝いの言葉といたします。
令和4年3月1日
京都市立銅駝美術工芸高等学校長
名和野 新吾