美術を通して、これからの時代を生き抜く力を磨く!
美術工芸科
〒604-0902 京都市中京区土手町通竹屋町下る鉾田町542[MAPを見る]
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式 辞
鴨川の水面に、競うように枝先を伸ばした桜が、今を盛りに咲き誇るこの佳き日、京都市教育委員会をはじめ、PTA役員の皆様、平素より本校にご支援をいただいております美工交友会、京都パレスライオンズクラブ、銅駝自治連合会のご来賓の皆様、そして、多数の保護者の皆様のご臨席を賜り、平成二十九年度京都市立銅駝美術工芸高等学校、第三十八回入学式を挙行できますことは、誠に大きな喜びであり、本校教職員を代表いたしまして、心よりお礼申し上げます。
ただ今、九〇名の新入生の入学を許可いたしました。まずは、新入生の皆さん、ご入学、おめでとうございます。教職員一同皆さんを、大切にお迎えしたいと思います。
保護者の皆様、本日はお子様のご入学、誠におめでとうございます。お子様のご入学を心よりお祝いいたします。これからの三年間、教職員一同、力を尽くしてお子様の成長を支援してまいります。どうかご理解、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。
本校は、明治十三年、一八八〇年に、日本最初の美術学校「京都府画学校」として創立され、今年で一三八年目を迎えます。現校地で美術専門高校として独立開校したのは、創立一〇〇周年にあたる昭和五十五年、一九八〇年。これまで本校を卒業された諸先輩方は、美術界、産業界ほか、各方面で活躍されておられます。皆さんは、本日、晴れてこの歴史と伝統のある学校の生徒になりました。銅駝美術工芸高校の生徒として、しっかりとした自覚と誇りをもって、志高く学習に取り組んでほしいと思います。皆さんは、今、期待と不安の交錯する気持ちでこの場所に臨んでいると思います。その新鮮な感覚を大切にして第一歩を踏み出してください。これから銅駝美術工芸高校で過ごす皆さんに、校長として心から期待することをお話しします。
私は、昨年、「世界の巨匠たちが子どもだったころ」という展覧会に行きました。そこには、パブロ・ピカソが十四歳で描いた「男性頭部の石膏像デッサン」や、ムンクが十八歳の時に描いた「雪景色の中の少年」、岸田劉生が十六歳の時に描いた「秋」など、著名な美術家が十代だったころの作品が出品されていました。彼らが生きた激動の時代、様々な境遇の中で、夢や希望、悩みや不安、親との葛藤のなかに身を置きながら精一杯描いた作品は、将来の活躍を窺わせるような観察力、感性、力強さが感じられるものでした。後に巨匠と言われるような作家も、疾風怒濤の十代は、思うようにならないこと、納得のいかないこと、見通しの立たないことに直面しながら、意欲的に情熱を注いで制作活動をしてきたのです。
先日の新聞記事に「よのなかは〈こども〉と〈もとこども〉でできている」という童話作家富安陽子さんの言葉が紹介されていました。この言葉を取り上げた京都市立芸術大学の鷲田清一学長は、「人は大人になっても内に子どもを宿している。どどっと感動する力、すさまじい好奇心と集中力、微細な変化を見逃さない感覚のアンテナは、芸術や科学に必要な資質でもある。ひからびた成熟からではなく、ぐじゅぐじゅの未熟が大事」と述べておられます。十代は大人になる準備期間、大人への階段を上っていく時期です。階段は狭かったり段差が高かったり、傾いているかもしれません。しかし皆さんの瑞々しい感性や好奇心、集中力や冒険心で一歩ずつ先に進んでください。
鷲田清一さんは『何のために「学ぶ」のか』という書物の執筆者のひとりとして「人生に非常に大切な局面で本当に必要とされるのは一つの正解を求めることではなく、あるいは正解などそもそも存在しないところで最善の方法で対処するという思考法や判断力」である、そして「投げ出さずに考え続けるいわば知的な肺活量をもってほしい」と述べられています。肺活量とは「息を最大限に吸い込んだ後、それをすべて吐き出したときに出る空気量」です。わたしは、「知的な肺活量」を大きくするには、最初から好き嫌いで間口を狭めるのではなく、様々な人やものとの出会いをかけがえのないものととらえ、それらと主体的に関わりながら対象と向き合い対話し、考察したことを言葉にすることが必要である、と考えます。そのような心構えをもって三年間の「学び」に取り組んでください。
しめくくりに谷川俊太郎さんの「学ぶ」という詩を紹介します。
あなたは学ぶ 空に学ぶ
空はすでに答えている
答えることで問いかけている
わたしは学ぶ 土に学ぶ
隠された種子の息吹
はだしで踏みしめるこの星の鼓動
あなたは学ぶ 木に学ぶ
人からは学べぬものを
鳥たち けものたちとともに学ぶ
わたしは学ぶ 手で学ぶ
石をつかみ絹に触れ水に浸し火にかざし
愛する者の手を握りしめて
あなたは学ぶ 目で学ぶ
どんなに見開いても見えぬものが
閉じることで見えてくること
わたしは学ぶ あなたから学ぶ
わたしと違う秘められた傷の痛み
わたしと同じささやかな日々の楽しみ
わたしたちは学ぶ 本からも学ぶ
知識と情報に溺れぬ知恵
言葉を越えようとする言葉の力を
そうしてわたしたちは学ぶ
見知らぬ人の涙から学ぶ
悲しみをわかちあうことの難しさ
わたしたちは学ぶ
見知らぬ人の微笑みから学ぶ
喜びをわかちあうことの喜びを
さあ、新入生の皆さん。今日から新しい時間が始まり、新しい空間に身を置きます。その時間と空間をどのように使うか、皆さんに委ねられています。窓のカーテンを開け、窓の外を見てください。見るだけでなく窓を開けて、見えるものの、色やかたち、風や香り、温度や音を感じてください。窓を開けたら扉を開けて、自分の体を外に出してください。自分と向き合い、他の人と向き合い、時間と空間をわかちあってください。
今日から始まる、銅駝美術工芸高校での生活。皆さんがまわりから与えられるのをじっと待つのではなく、主体的に、創造的にあなたらしい三年間を創りだしてくれることを心より願い、式辞といたします。
平成二十九年四月十日
京都市立銅駝美術工芸高等学校長 吉田 功