美術を通して、これからの時代を生き抜く力を磨く!
美術工芸科
〒604-0902 京都市中京区土手町通竹屋町下る鉾田町542[MAPを見る]
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式 辞
東山の稜線から明るい日差しがとどき、まさしく桜花爛漫の季節、通り過ぎた雨で花の色が鮮やかに映る今日の佳き日、京都市教育委員会をはじめ、PTA会長・役員の皆様、平素より本校にご支援をいただいております美工交友会、京都パレスライオンズクラブ、銅駝自治連合会のご来賓の皆様、そして、多数の保護者の皆様のご臨席を賜り、平成31年度、京都市立銅駝美術工芸高等学校、第40回入学式を挙行できますことは、誠に大きな喜びであり、本校教職員を代表いたしまして、心よりお礼申し上げます。
ただ今、93名の新入生の入学を許可いたしました。まずは、新入生の皆さん、ご入学、おめでとうございます。教職員一同皆さんを、大切にお迎えしたいと思います。
保護者の皆様、本日はお子様のご入学、誠におめでとうございます。お子様のご入学を心よりお祝いいたします。お子様が本校を志望されるにあたり、保護者の皆様が本校の教育をご理解いただき、進路実現を目指すお子様を励まし、ご入学までお導きいただきましたことに感謝申し上げます。これからの三年間、教職員一同、力を尽くしてお子様の成長を支援してまいります。どうかご理解、ご協力を賜りますようおい申し上げます。
本校は、明治13年、1880年に、「京都府画学校」として創立され、今年で140年目、現校地で銅駝美術工芸高校として開校してから40回目の入学生を迎えることとなりました。長い歴史と伝統をもつ本校を卒業された諸先輩方は、美術界、産業界、教育界ほか、各方面で活躍されておられます。皆さんは、本日、晴れてこの歴史と伝統のある学校の生徒になりました。銅駝美術工芸高校の生徒として、しっかりとした自覚と誇りをもって、志高く学習に取り組んでほしいと思います。皆さんは、今、期待と不安の交錯する気持ちでこの場所に臨んでいると思います。その新鮮な感覚を大切にして第一歩を踏み出してください。
さて、学校のそばを流れる鴨川の河畔は、今を盛りに桜が咲き誇っています。桜は、春に花を咲かせるために、何ヶ月も前から桜の樹の中でその準備をするのだ、と言うことを聞いたことがあります。桜の花は、開花してから散るまで約2週間ほどでしょうか。その2週間ほど人々の目を楽しませる桜の開花には、桜の樹がずっと前の季節から命の営みを続けてこなければ実現しないのです。桜色の糸を染めるには、桜の樹が花を咲かせようと時間をかけてその力を全身にみなぎらせてきた時に、その樹の枝や皮を伐って使うのだそうです。京都在住の染織作家、志村ふくみさんは、そのことを『色を奏でる』というエッセイのなかで書いておられます。志村さんは、ある人が本を見ながら草木染めしてみたが思うような色にならなかったということを聞いて、「私は順序が逆だと思う。草木がすでに抱いている色を私たちはいただくのであるから。どんな色が出るか、それは草木まかせである。ただ、私たちは草木のもっている色をできるだけ損なわずにこちら側に宿すのである。雪の中でじっと春を待って芽吹きの準備をしている樹々が、その幹や枝に貯えている色をしっかり受けとめて、織の中に生かす。その道程がなくては、自然を犯すことになる」とその思いを述べられています。日本国内だけでも数百種類あると言われる桜。言わずもがな、同じ桜の樹は2本とこの世にはありません。数知れない桜の樹は、根付いた場所、日差しや雨や、風や雪、それぞれの環境の中で、自然の力を吸収してエネルギーとし、生きています。私は、人間も同じではないかと思います。人はこの世に生を受けて、あまたの力をいただきながら様々な環境の中で命の営みを続けてきています。銅駝に入学した皆さんは、これから銅駝の高校生活の営みの中で、皆さん自身の色を出すのです。皆さんは、すでにひとり一人、自分の色を出す力をもっています。もし色が変わるとすれば、それは皆さん自身の中から湧き起こった力で変わるのです。私たち教職員の役割は、そのお手伝いをすることです。今までの色にこだわる必要はありません。どうか新しい色を創り出してください。加えて大切なことは、この世に二人として同じ人間はいない、人は多様で、ひとり一人がかけがえのない存在であるという重みを忘れてはならないということです。奇跡のような縁で、93名の新しい生徒がこの銅駝に入学しました。この不思議な縁に感謝し、人が多様であることの素晴らしさを理解して、自分と異なる人を受容し、向き合い、対話することを疎かにしないでください。
志村ふくみさんは、植物を使う作家として、植物を単に色を作るための材料とするのではなく、命あるものとして尊び理解し、その植物の大切なものを生かし切ることを追求されています。厳し謙虚な姿勢で制作に臨む志村さんは、文化勲章を受章された陶芸作家の富本憲吉さんから、かつて次のように言われました。「工芸の仕事をするものが陶器なら陶器、織物なら織物と、そのことだけに一心になればそれでよいか、必ずゆきづまりが来る。何でもいい、何か別のことを勉強しなさい。」「画家がただ絵だけ描いていたらそれでよいと思う人はいないだろう。」「あなたは何が好きか。文学ならば、国文学でも仏文学でも何でもよい。勉強しなさい。私はこれから数学がやりたいと思っている。若い頃英国に留学したとき、建築をやりたいと勉強したが、それが今大いに役立っていると思う」と。その言葉を志村ふくみさんは重く心にとどめ、制作する際の軸としてきたと『一色一生』という著書に書かれています。銅駝では、美術の専門的な学びをじっくり取り組むことができます。しかし、美術の学び、あるいは、作品の制作だけをする学校ではありません。普通科の科目、総合的な探究の時間、学校行事やホームルーム活動、生徒会活動、国際交流、社会とつながる課題研究など多様な学びがあります。アートを学ぶとともにアート以外の学びも主体的に取り組んで総合力を身につける、それが銅駝美術工芸高校の教育です。今日からその学びがスタートします。
皆さんが学校生活を過ごす本校の本館は、昭和初期に改築された銅駝小学校の建物です。今年は、全国に先駆けて京都で小学校が設立されてから150年目。京都では、明治維新の翌年1869年から、地元の人々の教育に対する熱い思いと資金供出の中で小学校が建設されました。銅駝小学校の前身、「上京第三十一番組小学校」もその最初の年に設立されました。昭和に改築された本館は、その後、数多くの子どもたちの学び舎として大切に使われ、戦後銅駝中学校として引き継がれました。ひとりひとりの人生にとって、また社会にとって「学校」はとても大切な存在です。
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「学校は希望を創るところ」だ、
そう私は考えています。
学校は人と出会い、学びと出会い、時には悩みや課題と出会いながらも、自己を磨き、変革していくところ、そして未来の自分に向けて可能性を広げるところです。戦前から多くの人々の学び舎として歴史を重ねてきたこの場所で、皆さんが、「見る、感じる、考える、表現する」という素晴らしい営みを旺盛に進め、皆さんらしい「希望を創る」3年間になることを願い、式辞といたします。
平成31年4月8日
京都市立銅駝美術工芸高等学校長
吉田 功