社会に羽ばたくグローバルリーダーの育成
エンタープライジング科
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11月22日(火)16時50分から,6階エンタープライズ演習室にて,「Glocal Olympics(まちづくり甲子園)2016」参加生徒(2年生5名)による校内報告会を行いました。
この大会は,7月16日(土)から18日(月)の3日間にわたって,島根県立隠岐島前高等学校(SGH指定校)の主催により行われたものです。隠岐國学習センター(島根県隠岐郡海士町福井)を主会場に,日本の“超課題先進地域”である島前地域(海士町・西ノ島町・知夫村)が実際に抱える課題について,全国から集まった多様なメンバーとともに生徒同士で協働しながら探究し,解決策を企画立案して提案するという,課題解決型・宿泊型のワークショップです。参加者は総勢30名(1年11名・2年14名・3年5名/男子10名・女子20名)で,参加校は,島根県立隠岐島前高等学校,愛媛県立宇和島南中等教育学校,熊本県立河浦高等学校,宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校及び本校の5校です。
本日の報告会は,江ノ畑龍一さんの進行により,次のような流れで行いました。
隠岐島前地域の紹介・・・・・・・吉田詩子さん
まちづくり甲子園の紹介・・・・・田中優羽さん
グループでの取組内容の紹介・・・村瀬里帆さんと嶌本千紘さん
まちづくり甲子園への参加で学んだこと(全員)
質疑応答
吉田さんは,本校の生徒数と島前各島の人口を比べて島前地域の規模を説明しつつ,サイクリングで島内を回って意外に広いと感じたことも紹介し,データに基づく客観的な根拠と実際に現地を訪れて感じた主観的な印象とを織り交ぜながら,島前地域を知らない聞き手にも分かりやすい説明を行っていました。
田中さんは,日本や世界の抱える様々な課題の先進地として島前地域を捉え,そこでの問題解決が世界のモデルケースとなりうることを聞き手に伝え,京都の高校生が島前地域へはるばる行って問題解決に取り組む意義を明快に説明していました。(なお,まちづくり甲子園の概要や日程の詳細については,過去の記事を御覧下さい。)
現地では,それぞれが異なる班に分かれ,他校生とともに活動を行いました。今回は,このうち「観光」及び「教育」班の活動について,報告がありました。(他に,環境保全・図書・漁業・福祉の各班がありました。)
観光班の村瀬さんは,自身も外国の御出身であるミッション提供者から受けた,“西ノ島にも近年多数来るようになった外国人観光客の受け入れ体制が整っていない状況”の説明を丁寧に分析し,その問題を解決する提案を報告しました。観光班では活動の間に,「英語での対応が難しい」として西ノ島の宿泊施設が外国人を受け入れられないとする一方,西ノ島を訪れる外国人観光客は必ずしも「丁寧なおもてなし」を求めておらず,むしろサイクリングや魚釣りを自由に楽しむことを主として,付加的な要素として日本文化にも触れられる滞在を望んでいるという,島民と外国人観光客相互の認識のズレを発見していました。
そこで,観光班では,外国人観光客が体験型の旅行を求める需要を捉え,日本文化にも触れられる旅行商品として,「西ノ島に点在する空き家を活用した宿泊施設」を提案しました。外国人観光客は,日本の伝統的な遊び道具などが配置された空き家の施設を自由に活用できますが,何も説明がないと使い方や作法を理解できないため,日本文化を紹介する冊子などを設置し,日本人が一つ一つ教えなくても,適切に日本文化を学べる工夫を考案しました。また,屋外でも島前地域の魅力を堪能できるよう,島前地域ならではの体験や活動を記した“ミッションカード”を作成しておき,外国人観光客がそれを実践することで,島全体で体験活動ができる形を提案しました。
教育班の嶌本さんは,知夫村教育委員会で魅力化コーディネーターを務めるミッション提供者から“知夫の少子化と過疎という喫緊の現状”について説明を受け,長期的な提案もさることながら,“短期的で即効性のある提案”が求められている状況を理解し,強い危機意識と当事者意識に基づいて取り組んだ問題解決の内容を報告しました。
島前3島のうちでも最も人口が少ない知夫では,緊急に対応すべき課題として小・中学校の生徒数減少があり,その対策として小・中学生の「島留学」(これまでから隠岐島前高校では行われており,これを義務教育段階にも広げようというものです。)を来春から行うのですが,希望者が少なく早急な対応が求められているとのことでした。
教育班のメンバーは現状に焦燥する一方で,地元である隠岐島前高校の生徒も含め,総じて知夫の知識が乏しいことを自覚し,フィールドワークではまず“知夫を知る”ことを目的に島内を巡りました。そうして“知夫の魅力”と“知夫で暮らすということ”を理解した上で,島外の人間が知夫を知ることができる情報発信の方法を検討しました。具体的には,島前高のWebサイトに知夫の島留学ページへのリンクを設置し,地域での教育に関心が高い同サイト訪問者に対し宣伝することや,島前高が島留学生を募集する際に知夫の島留学もあわせて案内してもらうことを提案しました。また,島前高の島留学生が地元に帰省した際に,小中学校で知夫の島留学を宣伝することも提案しました。これらの短期的な解決策に加え,寮があるとはいえ,小中学生がいきなり知夫で暮らすのは障壁が高いため,数ヶ月程度の短期的な“おためし島留学制度”の創設も提案しました。
最後に参加生徒はそれぞれ,まちづくり甲子園への参加や島前地域への訪問を通じて学んだことを発表しました。
江ノ畑さん
たとえSGH校の生徒ばかりであっても,班の中で議論を進行するリーダーの存在が重要だと認識しました。そもそもリーダーがいないと話は進みませんが,今行われている議論を進めるだけでなく,議論が行き詰まったときに上手く議論を方向転換し,自分のミッションの解決策を提案できる方向に舵取りを行う難しさを感じました。これまで多くの外国や都会に行きましたが,島前にはまた別の魅力があり,これまで訪れた中で最も印象に残りました。
嶌本さん
島外からの訪問者にすぎない自分たちを島の人々が丁寧にもてなしてくれたことや,行政を行う首長が真剣に話を聞く場で提案を発表することを通じて,自分たちが真剣に考えた提案には相手から反応があり,実現される可能性があると実感できました。私は小学校教員志望で,僻地校にも関心があって今回参加したのですが,大学生になったら在学中に知夫を再訪して,知夫の学校で研鑽を深めたいと思いました。
田中さん
「島」という環境に好奇心を抱いて参加しましたが,フィールドワークで実際に漁船に乗せてもらって定置網の設置場所まで行くことができ,単なるワークショップの一企画でも真剣に協力してくれる,隠岐の人々の懐の深さを感じました。ミッションは未だ根本的な問題が明確化されていない難題でしたが,問題を発見する段階から経験できました。まちづくり甲子園に集った全国各地からの参加者と友達になれたことが自分の誇りであり,班員とまた一緒に語り合いたいです。
村瀬さん
自分が地元で行っている活動に活かしたいという動機で参加しましたが,島前の人達の郷土愛や,隠岐の素晴らしさを知ってもらいたいという気持ちを強く感じました。自分で「これをやりたい」と思って行動することが今まで多かったため,意志の強い島留学生との出会いが刺激になった一方で,周りから自分の「強み」を教えてもらい,周りの人から吸収することも多くありました。
吉田さん
海外研修や東北でのボランティア経験から,“実際に現地に行ってみないと分からない”と感じて,今回参加しました。島の人々は観光客でも知らない人でもすれ違った人に挨拶するということに人々のあたたかさを感じ,皆が自分の人生を生きていてキラキラ輝いているように思えました。京都は都会で観光客も多く,予算も潤沢で恵まれた環境と感じていましたが,都市が抱える課題を感じることができました。人のつながりを広げられないと新しい知識も得られず,自分の視野が広がらないため,他の人に話しかけていくことが重要だと実感しました。
5人とも,まちづくり甲子園の終了から半年経っているとは思えないほどに,現地での活動や会話,出会った人や自然を正確に記憶していて,島前で過ごした日々が強く印象に残っていることが伺えました。また,先日(10月21日)起こった鳥取県中部地震の際には,LINEで島前高の生徒に状況確認するなど,まちづくり甲子園で出会った高校生と継続的にやりとりし,まちづくり甲子園を一過性のイベントに終わらせまいとする意識の高さを感じました。
この報告会前日にはリハーサルを行いましたが,それまでに一通りの資料が完成されていました。彼らは部活動で中心となる2年生であり,また専門科目「エンタープライズII」で取り組んでいる「SGH課題研究」のレポート提出締切をはじめとする課題が何かと多い等,忙しい中,報告会を成功させたいという意気込みを強く感じました。
今年度のまちづくり甲子園に関する取組は「報告会」という形で一つの区切りを迎えましたが,これで全てが終わったわけではありません。地域の明日と自分たちの望む未来に向けた戦いは,島前の地で,また全国から参加した高校生の地元でも続いています。西京生の5名には,一人の個人として研鑽していくことはもちろん,島前の地で成長した人間として,地域への貢献も求められています。
今後ますますの活躍を期待しています!