社会に羽ばたくグローバルリーダーの育成
エンタープライジング科
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7月22日(水)・23日(木)の午前,2年生夏季学習講座「生物探究I」の授業において,株式会社クロスエフェクト(京都市伏見区・京都市のオスカー認定企業・第5回「ものづくり日本大賞」内閣総理大臣賞受賞)様の御協力により,「軟質心臓シミュレータ」を活用した授業を2年生自然科学系コース(理系)の講座で行いました。今回は,2年生理系生物選択者全員に対してこの授業を行うため,2日間に分けて実施したものです。
22日の授業の冒頭では,株式会社クロスエフェクト代表取締役の竹田正俊様から,心臓シミュレータ開発の経緯や用いられている技術などについてお話しいただきました。題して「3Dプリンタの応用から生まれた,いのちを救うプロジェクト」。
人間にとって最も大切な臓器・心臓。100人に1人の割合で「先天性小児心疾患」がみられます。国立循環器病研究センター小児循環器部・白石先生の「赤ちゃんの命を救いたい。」という声から,このプロジェクトが始まりました。
現在普及している医療用の臓器モデル,特に心臓のモデルは,硬い樹脂製または木製で,実際に曲げたり,切ったり,縫ったりすることは不可能であり,あくまで構造理解用のモデルとして,実際の手術のトレーニングや検討用としては使用できませんでした。
心臓の手術は極めて難易度の高いものであり,事前に練習できれば成功率が上がるのではないか,という仮説のもと,CTスキャンの輪切りのデータを利用した「術前シミュレーションモデル」の開発に,平成21(2009)年から着手したそうです。
株式会社クロスエフェクトのミッションは「心臓疾患患者手術成功率を高められる術前シミュレータの開発・普及で,人命救助の一端を担う」ことであり,「医者でなくてもいのちは救える」という言葉を胸に,「シミュレータの普及により医師の手技能力が格段にアップし,患者にとって負担の少ない手技の開発が進む」というビジョンの実現に向けて日々奮闘されています。
世界初のオーダーメイドによる,本物に酷似した精密性・質感・強度を有するリアルな精密心臓シミュレータが出来るまでの工程(CTスキャンで撮影→3Dデータ作成→高速光造形→複雑な内腔の表現が可能な特殊型の製作と,専用樹脂の流し込み→受注から約1週間で完成)についても,詳しく説明して下さいました。
そして,心臓内腔の構造が手に取って確認できる「立体教科書」として,「術前カンファレンス」「術中ナビゲータ」等の用途が想定され,成人男性モデルは主に若手執刀医の訓練教材として複雑な形状理解を飛躍的に深め,執刀医育成に大いに貢献しており,非常に難解な先天性疾患モデルの開発により,中堅・ベテラン執刀医に対しての訓練教材としての利用も含め,あらゆる世代の執刀医の技術力向上に寄与しているそうです。
最後に,今後目指すところについてもお話し下さり,現状の平面的な画像による診断から「実モデル診断」への移行により,今までにない画期的な術式が生まれること,また,シミュレータの枠をこえ,生分解性樹脂や生体適合性樹脂を用いた臓器モデルの実現にも貢献したい,と「ドリームファクトリー」への思いを熱く語って下さいました。
それを受けて始まった藤田先生の授業では,まず,フラスコ(ドイツの化学者エルレンマイヤーが考案した三角フラスコ)の形状の工夫により実験の精度が格段に上がった事例を紹介しながら,技術の開発はいろいろな可能性を秘めている,というエピソードから始められました。
そして,心臓の構造について復習した後,それぞれシミュレータを手に取り(2人に1つずつ使えるように,十数個お持ち下さいました。),乳頭筋などの細かいところまで再現されている内部の様子をじっくりと観察して左心室の方が右心室より分厚いことを実感したり,静脈血や動脈血に見立てたビニール紐を通しながら血液の流れや弁の働きを確かめたりしました。いつもは教科書の平面的な図でしか見たことがない心臓の複雑な構造を,興味深そうに見入っていました。
また,心臓の成り立ちや先天的な心臓の奇形が起こるメカニズムを説明した後で,心房中隔欠損などの状態の赤ちゃんの心臓シミュレータも実際に触って正常な状態との違いを確かめていました。
最後に,先天的な疾患だけでなく,後天的なトラブルの術式検討にも有用であり、あらゆる世代の役に立つものであることも説明して,授業は終了しました。
生徒たちは,「命を救う技術」を開発する方々の思いを知り,心臓内部の構造も実感できたことで,大変感激していました。本日学んだことを一つの契機として,自分なりに興味関心を深めて学んでいってほしいと思います。
竹田社長,お忙しい中御来校の上生徒たちにお話し下さり,また高価なシミュレータを多数お持ち下さいまして,誠にありがとうございました!