社会に羽ばたくグローバルリーダーの育成
エンタープライジング科
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9月12日(土)土曜活用講座終了後の11時50分から,7階大講義室にて,1年生全員を対象として,「EEP特別講演会」を行いました。(EEPとは,「Enterprise Education Program」の略称で,産官学各界の講師による講演を通して,「進取・敢為・独創」のエンタープライズ精神涵養と知の世界への興味関心を高めることを目的とした取組です。)
本日の講師は,京都大学総合博物館准教授の塩瀬隆之先生です。御専門は知能機械学・機械システムで,インクルーシブデザインやコミュニケーションデザインに関するワークショップを200回以上重ね,「ために」から「ともに」へと社会が変わるコミュニケーションの場づくりを実践しておられます。また,小・中・高校におけるキャリア教育,企業におけるイノベーター育成研修,熟練技能伝承に関する講演も多数なさっています。更に,平成24年には,京都大学准教授の職を辞され,2年間,経済産業省産業技術政策課で,技術戦略担当の課長補佐としてお勤めになった御経験もおありです。(昨年夏に復職されました。)
演題は,「カガクノミカタが切り拓く未来―激動の社会で自発的学びがもたらす価値―」。約50分間にわたって,生徒たちに熱く語りかけて下さいました。
まずは,トランプを題材に,「人の視野がいかに狭いか」ということの体感です。示された話題をもとに3~4人で仮説を立てて,話し合い,考えたことが正しいか検証します。そして,中心視野と周辺視野の説明から,「視野は容易に狭くなる。このことを知っていれば視点は動かせる。自発的に俯瞰することが不可欠である。」として,狭い視野を広げる一つの方法としての「カガクノミカタ」について考えていこう,と生徒たちを導いていかれました。
次に,ダンゴムシの「交替性転向反応」(乾燥を避けて湿気を求める,あるいは天敵から逃避する等の理由で出来るだけ遠くへ移動するため,衝突するたびに左右およそ等確率で移動する)はどれだけ繰り返されるのかを徹底的に調べた研究をもとに,「思いつくだけではなく,行動することが大切である。そして,突き詰めることを心掛けてほしい。」と,探求し続けることの重要性を説かれました。さらに,京都大学の山中伸弥教授が開発に成功された「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を巡る熾烈な論文発表の争いにも触れられ,「行動するのも,人一倍のスピードで」と付け加えられました。
3点目に,「皆さんがこれから選択する理系・文系のコース分けを,『人生の二択』と誤解してはいけない。」と注意され,レアアースとエコカーの事例を挙げながら,「世の中には,“理系の人だけが解く問題”“文系の人だけが解く問題”等は存在しない。そんなものは,受験のときだけ。」「理系も文系もカガクノミカタも,一つのモノの見方にすぎない。」と諭されました。そして,「両方をつなげられる人が世の中には少ないので,広い視野を身に付けておいてほしい。」「大学の4年間とは,ある一つの視点(学問)を,4年間通じて獲得すること。その視点が新しい道(選択肢)の存在を教えてくれる。」等々,「自然科学系コース」「社会科学系コース」いずれに所属するのかの決断(文理選択)をこれから行う生徒たちへのエールを送られました。
塩瀬先生は,東日本大震災で被災した石巻市の中学生と出会って支援する中で,彼らの思いを知り,「はたらく」と「まなぶ」の距離をもっと近づけたいと考えられたことを契機に,大学准教授の職を辞めて経済産業省で勤務することを選択されたそうです。
日本の半導体産業が凋落しても,そこで働く人々の約80%が「勝ち残れない」とわかりつつも「同じ会社で勤め続けたい」とあきらめていたり,25歳以上で大学等の高等教育機関において学ぶ人の割合がわずか2%(OECD加盟国の平均は20%/ちなみに,ポルトガル36%,アメリカ24%,イギリス19%,ドイツ15%等)にとどまったりしているなど,「自分で学び直して方向転換を図る」ことがうまく出来ていない現状を指摘されました。そして,ドバイ等の例をもとに「20年間の劇的な変化は予測できない。20年前に必要な勉強や仕事と,20年後に必要な勉強や仕事は変わる。だから,学び続けるということが生きる道。」「未来は予測できない。最も正確な予測は,未来を創造すること。」「学び続け,新しい視点を手に入れながら成長していってほしい。今の夢と,大学に入ってからの夢が変わっても,それは良いこと。常にベストの選択をし続けるのが大切。」とおっしゃいました。
更に,内閣府が行った若者の意識の国際比較調査の結果をもとに,「日本の若者は,うまくいくかどうかわからないことへのチャレンジに消極的で,社会を変えられるかもしれないという自己効力感が大きくない」「皆さんには,過去の自分を信じること,そして未来の自分を信じること,この『二つの“自信”を大切に!』という言葉を贈りたい。」「変化の激しい時代,皆さんが提案することに対して,大人は経験したことがないので,おそらく褒めないだろう。しかし,自分が大事と思うことはしっかりと貫いてチャレンジをやめないように。」と激励されました。
結びに,「我逢人」(人と人との出逢いの尊さを三文字で表した禅の言葉です。)という,先生がお好きな言葉をお贈り下さり,「あなたを広く深く成長させてくれる人との出逢いを大切に」と呼び掛けられました。
“おまけ”として,「この世の中からすべての大学がなくなったら皆さんはどうするか」(グループワーク),「『まなぶ』の類義語と反対語を書きなさい」(一人で考えてグループで共有)という2つの課題を行った上で,「グローバル化とは欧米化ではない。20年後,日本は世界の中で70億分の1億という存在。相対的弱さの中で,誰も経験したことがない人口減少社会を生き抜くために日本人に求められるリーダーシップとは何か,誰も答えを知らない。その未来社会で皆さんは活躍を期待されている。」「皆さんには,“たのしい”“生きる”上での学びをしてほしい。」と,激励して下さいました。
質疑応答では,「行き詰った時に,学ぶツールとして何が大切ですか」「“学び直し”とおっしゃったけれども,なかなかそれが難しい現実が今の日本にはある。どのようにすればよいですか」という質問が出ました。
塩瀬先生は,「京都大学のアドミッションポリシーは『対話を根幹とした自学自習』。学問とは,対話を通して研鑽するもの。大切なのは,コミュニケーション能力。いつも相談し,切磋琢磨できる人を作るようにするのが一つ。ただ,同じ人同士で議論しているだけでは視野が狭くなるので,いろいろな人と対話することも大切。人と話せば話すほど新しい気づきがあるもの。パートナーを変えればまたブレークスルーできる。」と,「対話」の重要性を指摘され,それを意識的に行いつつ,新たな気づきを楽しむよう促されました。
2つ目の質問に対しては,フランスやアメリカの制度・仕組みを紹介しながら,「現実の大学に通うだけがすべてではない。ネット上で様々な講義を受けることができる現状もある。要は,自分の中で『伏線を張っておく』ことが大切。自分の興味の範囲を広げながら,いろいろな学びのタネを花開かせていってほしい。」と答えておられました。
最後に,生徒代表からお礼の言葉を述べて,講演会は終了しました。
生徒の感想です。
・今まで自分が思っていたことをすべてひっくり返されるような講演で
した。
・「学び続ける」ということは「チャレンジし続ける」というのと同じ
ことだと思うので,生きる道につながる「学び」をこれからも大事に
続けていきたいと思います。
・未来を予測するためには,過去も現在も知らなければならない。その
ためにも,学校の勉強だけでなく,今の世界をしっかりと捉えること
が必要だと思いました。
・学びの大切さや楽しさについて考え直すことが出来て収穫があった
し,この厳しい世界の中で何を大事にして生きて行けばよいかという
軸,モットーが自分の中で出来てスッキリしました。
・答えがないかもしれないことに対して向き合うことが大切なんだとわ
かったし,今の自分たちに足りていないことなんだとわかりました。
・切磋琢磨できる友人とコミュニケーションをしながら,「新しいも
の」を見つけていきたいと思います。
・先生がおっしゃった「2つの自信」という言葉が,自分の中で一番心
に響きました。自分のやりたいことが見つかったときに,自分の力不
足でそれを諦めなければならなくなってしまわないためにも,しっか
りと努力していこうと思いました。
・「すべては人の出逢いから」という言葉に一番共感しました。堀場雅
夫先生が思いを込めて設立された「エンタープライジング科」の生徒
として,エンプラ精神を常に持ちながらグローバルリーダーを目指し
ていきたいと思います。
「進取・敢為・独創」を校是とする西京高校の,これから文理選択を控えた13期生に対して,期待とエールを送りながら,刺激と示唆に富むお話をして下さいました。
塩瀬先生,お忙しい中御講演を賜り,誠に有り難うございました。