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普通科・探究学科群(人間探究科・自然探究科)
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先日、台湾の新竹市で行われた模擬国連会議(NEMUN2024)に本校生徒5名が参加しました。
この会議は台湾有数の高校である国立新竹科学園区実験高級中等学校が主催し、10年ほど前から毎年開催されています。例年、台湾各地の約25校から200名ほどの高校生が参加する中、今回、堀川高校はこれまでの学校交流の縁から参加機会をいただき、日本から唯一の参加校として現地での活動を行いました。私も同行させていただきました。
昨年度、年が明けてすぐ、十数ページに及ぶ実施要項が台湾から届く。すべて現地の言葉。翻訳ソフトなどを活用しながらその解読を進め、参加を希望した5名の生徒と情報を共有しながら準備計画を練り始める。
大会テーマ「Fission to Fusion」のもと、参加するすべての高校生が総会第一委員会や国際原子力機関など4つの各会に分かれて活動する。その中で、各生徒は割り当てられた国を1人で担当し、「大使」としての役割を果たさなければならない。各会の議題に基づいて主張や交渉を繰り返し、最終的には決議案をまとめる。その過程における代表スピーチやロビー活動、質疑応答などはすべて英語によって行われる。
大会が近づくと、主催する高校から事前課題などの詳細情報が届く。生徒5名がそれぞれ担当する国も決定する。エジプト、イタリア、ヨルダン、エストニア、ベラルーシ。なじみの薄さゆえ、多少困惑した表情を浮かべる生徒もいる。
5月に入り、生徒たちは昼休みや放課後に主体的に集まり、担当国の基礎情報を整理し、代表スピーチの構成、交渉にあたっての対話術、主張するときの戦略などを検討する。時折、英語や地歴公民の先生、ALTから指導を受けながら事前学習を進める。学習会を重ねるごとに準備の質が上がり、大会への臨場感も高まっていく。
5月下旬、3泊4日の行程で台湾へ。そのうちの2日間、朝から夕刻まで会議づけの濃密なスケジュールが組まれている。その初日の夜には宿泊ホテルでの晩餐会も計画されており、ドレスコードも指定されている。社交的で洒落た高校生たちの遊び心。楽しむことを忘れない。
大会運営のほぼすべてが主催する高校の生徒スタッフによるものだ。遠くからの参加者の宿泊の手配、大会運営費の管理、全参加者の昼食の発注、講演者の調整まで。現地ではさまざまな生徒スタッフが、特に不慣れな私たちを気遣って丁寧に声をかけてくれ対応してくれる。格好良い大人の風格を漂わせる生徒たちの行き届いたおもてなしの心、そして大会成功への意気込みが伝わってくる。
会議初日の朝、オープニングセレモニーが始まる。正装姿の高校生たちが大きなホールに集まる。まずは事務総長の挨拶。もちろん現地の高校生が務める。私たち堀川高校を紹介いただくとともに、参加に対する感謝の辞をいただく。歓迎いただいたことがとてもうれしい。そのあと、大会役員や各会議長の紹介、基調講演と続く。最後には事務総長がガベルを打ち、大会の開始を宣言する。
生徒たちは各会場に移動し、議長の仕切りのもとで会議が始まる。まずは各国の代表スピーチが次々と続く。5名の生徒もそれぞれ緊張しながらも「大使」としての役割を果たす。そのあと、生徒たちは世界の平和を考えながら「自国」の発展を見据え、「相手国」を見つけて交渉したり、主張の類似する「国々」が集まって案を調整したりする活動が続く。台湾の高校生たちの相当高い英語運用能力に圧倒されて突っ立っていては「世界」から取り残されてしまう。堀川高校生にとっては“完全アウェイ”の状況の中、台湾の高校生たちの視点や発想、積極性に戸惑いながらも徐々に順応し、それぞれの場面で臆することなく持っている力を最大限発揮しようと果敢に挑んでいる。時折、笑顔を浮かべながら現地の高校生と会話を楽しんでいる。その若々しさが頼もしい。
会議2日目。昨日に引き続き会議が進む。決議案の作成に向けて、各大使は席を立って慌ただしく動き回る。各会議で案が整えられると、議長が会議を締めくくる。
クロージングセレモニーを迎える。全員が再びホールに集う。さまざまな人たちからの挨拶のあと、大会を締めくくる動画が流される。現在も世界で進行中の諸課題が映像によって綴られるとともに、その解決に向かう2日間の活動の様子が映し出される。「自分たちの力で世界を変え、平和で幸福な社会を築いていこう」といった若者たちの強い想いが表れているようにも感じる。
その日の夜。5名による振り返りの会。次のようなことばが聞かれる。
議論を焦点化する力、多様な情報を整理する力、瞬時に修正し判断・行動する力、英語の複数の技能を同時に活用する力、…。
「『今、目の前で何が起こっているのか』をしっかりと見極めて、以前の出来事と次に向けたイメージを関連づけて予測して行動することってすごく大切だなって思った。そうやって、自分の立ち位置や役割を考えないといけないんだなって。」
「できなかったこともたくさんあったけど、自分のできないことに気づけたのは、実際にここに来て経験してはじめてわかることだと思います。できなかったマイナスよりも、気づけたことをプラスとして大切にしたいです。」
こういった気づきとともに、生徒たちの大きな挑戦は幕を閉じた。
2006年にノーベル平和賞を受賞されたバングラディッシュ出身のムハマド・ユヌス氏が来日された際、ある学生と次のようなやりとりをされたと聞いたことがある。
「ムハマド・ユヌスさんにとって貧困とは何ですか?」
「denial of the opportunity」
物事の入口である「1」を知ろうとするかどうか。その姿勢によって、そのあとの自己変革のあり様は大きく変化するのではないか。機会を通して得たものは、それが認知的なものであろうと非認知的なものであろうと、今後の学びを豊かにしていくための動力源となると信じている。
活動振り返りの最後に、生徒全員が清々しく言い残した。
「参加してよかった。次の機会には他の人たちにも参加してほしい。」
そしてまた、それぞれが新たな気持ちで学校生活を再開させた。
校長 橋詰 忍