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普通科・探究学科群(人間探究科・自然探究科)
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7月13日。前日まで降り続いた雨も上がり、蒸し暑さの中にも時折涼しい微風を感じる曇り空の朝、堀川高校野球部が夏の大会に挑んだ。
たくさんの保護者の方々や生徒たちが、選手たちを応援しようと球場へ駆けつけてくださいました。ありがとうございました。
7月11日に予定されていた試合だったが、雨天により2日間延期されての今日。選手たちは待ちわびたことだろう。対戦相手は奇しくもちょうど1年前の夏の大会で大敗を喫した高校。球場もその時と同じ。雪辱を果たしたい。
8時25分、選手たちが1塁側ベンチ前に集まり円陣を組む。これから始まる戦いに向け、選手たちは大きな声をそろえて気合いを入れる。そして静かにキャッチボールを始める。
まもなくすると球場にサイレンが鳴り、堀川の選手たちが自分のポジションに向かって方々に元気よく走りだす。試合前のグラウンド全体練習。選手たちは少し緊張しているのか、監督が放つノックのボールがグローブにうまく落ち着かない様子もみられる。それでも7分間という短い中で、キビキビとした動きをみせる。
相手校の全体練習が終わると、係の方々が慣れた様子ですばやく丁寧にグラウンドを均してくださる。おそらく昨日までの雨でぬかるむグラウンドを試合可能な状態にまで整えるにも、見えないところで相当な時間と労力をかけてくださったことだろう。
整備が終わると選手たちはベンチ前に整列し、グラウンドに向かって感謝を伝える。続いてスタンド応援席に向かって、保護者の方々や仲間たちに全力のプレーを誓う。
8時50分、各校の校歌がグラウンドに響き渡るとともに、出場選手が1人ずつアナウンスされる。おのずと高揚感が湧き上がる。両校の紹介が終わると、選手たちが威勢よくそれぞれのベンチからホームベースに駆け寄り顔を合わせる。そして審判が試合開始を告げる。
後攻の堀川。まずは守備から。選手たちがポジションにつくと、小学生による始球式が行われる。堀川のキャッチャーは受け取ったボールを持ってマウンドにいる小学生のもとへ。ボールを手渡し、笑顔で小学生の肩を親しげにポンポンとする。優しく「ナイスボール!」とでも声をかけていたのだろうか。緊張が和らぐ微笑ましい一場面。
1回表。いきなり出端をくじかれる。相手の先頭打者がライトオーバーの3塁打。このまま終始攻め込まれるのか、いや、試合はまだ始まったばかりだ。アウトを1つ取ったあと、デッドボールを与えてしまい1、3塁。そして4番打者を迎える。堀川の内野は前進守備。ここは1点も与えられない。打者が放った打球は勢いあるライナー。セカンドの選手が後ろに抜けそうなところを必死に左手を伸ばしキャッチしてアウト。続けてすばやく1塁に送球。飛び出していた1塁ランナーがアウト。スリーアウト。選手たちは飛び跳ねるように喜びながらベンチに駆け戻ってくる。瞬時の流れるようなダブルプレーが選手たちを勢いづける。スタンドの声援も一段と大きくなる。
1回裏。相手ピッチャーの球は走っている。それでも堀川の選手たちが食らいつく。1番打者が2塁打。送りバントで3塁へ。3番打者がセンター前ヒットを放ち1点先取。ピンチのあとのチャンスを活かした選手たち。みんながベンチから飛び出て、生還した選手を囲み声を上げる。
2回表。相手の選手たちにも意地があろう。ヒットを重ね塁を埋めていく。堀川は1つのアウトをなかなか取れない。ノーアウト満塁。内野選手がマウンドに集まる。小休止によって落ち着き、作戦を確認していることだろう。これまでの練習どおりに着実にやりきってほしい。
1点2点と失点が重なる。1アウトを取ったところでピッチャー交代。ライトにいた選手がマウンドに駆け寄る。ここまで投げたピッチャーはそのままライトの守備へ。回は短いもののよく投げてくれた。そのあとさらに1点を献上し、この回に3点を失う。それでも選手たちはまだまだ戦う姿勢を失ってはいない。むしろ、この大一番を思いっきり楽しんでいる様子が伝わってくる。
2回から5回まで、堀川はなかなか攻め込むことができず三者凡退が続く。一方、相手の攻撃は止まず、幾度となくピンチを招く。それでも鋭い打球を丁寧に処理したり、外野に飛んだ打球をダイブしてキャッチしたり、力強い投球で三振を奪ったりと、全員の力を結集させて粘り強く耐え凌ぎ、0点で切り抜ける。何とか攻勢に転じたい。
2点のビハインドで迎えた6回裏。堀川は2アウトからセンター前ヒットで久しぶりの出塁。続いてフォーボールで1、2塁。そのあとそれぞれが進塁して2、3塁。一打出れば同点のチャンス。試合展開からすると、ここで少しでも差を縮めておきたい。
打席に立つ選手がプレッシャーを感じる中でも必死にバットを振る。芯で捉えられた打球はライト方向へのヒット。塁にいる2人のランナーがホームベースをめざして全力で疾走する。生還。劇的な同点の場面に心が震える。応援席は太鼓の連打とともに歓喜に沸く。
同点打を放った打者は、2人がホームインする隙をねらって果敢に2塁に進塁しようとするがアウトとなり、この回の攻撃が終わる。その時に相手選手と接触し、足を負傷してしまう。2塁ベース上からしばらく動けない。しばらくしてゆっくりとベンチに引き下がり、治療を受ける。10分ほどの中断を経て再びグラウンドに現れ、守備につく。あちこちから激励の声が飛ぶ。
7回表を無失点に抑えたその裏の攻撃。1アウトからサードの頭上を超えるヒットで出塁。盗塁を決めて2塁へ。流れは少しずつ堀川に傾いている。逆転への期待が膨らむ。2アウトからレフト前ヒット。ランナーは一目散にホームに突っ込む。だが、相手も懸命に失点を阻止しようとする。タイミングは厳しい。アウト。残念だが悔やんでも仕方ない。切り替えて次の回へ。
8回表。相手の出塁から盗塁を許す。2アウトまで取ったものの、そのあとライト前ヒットを浴び、1点を奪われる。終盤でのこの1点は堀川に重くのしかかる。すかさずベンチにいる選手が監督の伝令を伝えるためにマウンドに向かう。内野の選手たちが円陣を組んで、あらためて心を整える。まだ終わっていない。次の打者をセンターフライに抑えて攻守交代。
そして迎えた9回裏。1点を追う最後の攻撃。打順は3番から。打球はピッチャーの横をすり抜けてセンター前ヒット。盗塁で2塁へ。次の打者がフォーボールで出塁し、0アウト1、2塁。選手たちはこの日一番の声でお互いを励ます。応援席もいっしょになって選手たちを勇気づける。
送りバント失敗で1アウト。そのあとの打者は、バットを振った際に足がつってしまう。暑さの中での熱戦で、相当な疲労がたまっているのだろう。しばらく打席から動けない。監督や選手たちが様子をみて治療を行う。数分のインターバルのあと、試合が再開される。見逃しの三振で2アウト。もう後がない。みんなが祈るように打者を見つめる。
レフトフライ。アウト。ゲームセット。
両校の選手がホームベースを挟んで整列し、お互いを称えあう。そのあと、堀川の選手たちは応援席の前へ移動して一礼し、感謝を伝える。負けはしたものの、選手たちの姿は清々しく凛々しい。応援席は選手たちに精一杯のプレーにエールを送る。いっしょになって戦った一体感が漂う。
こうして、2時間23分に及ぶ堀川の夏の大会が幕を閉じた。3年生にとっては最後の大会だった。数少ない部員の中でも目標を見失わず工夫をしながら練習に励み、マネージャーなどのスタッフとともにここまで一丸となって戦ってきた生徒たち。すばらしい試合を見せてくれた。
“いま”の経験の価値。たった数秒の“いま”という瞬間の臨場感や緊迫感は力強く鮮明で、いきいきと感じられる。打球を追う最初の一歩の瞬間、バットをぐっと握りしめる瞬間、仲間の奮闘に心が躍る瞬間、感極まって涙がこぼれる瞬間。そんなさまざまな瞬間は価値あるものとしてずっと心に留まるものであろうし、その瞬間に至るまでにどのような過程を歩んだかによって、その充足感も変わってくることだろう。
堀川高校生たちには、学校内外のさまざまな場面で価値ある“いま”を体験してほしいと思っています。9月に行われる文化祭もその機会のひとつ。各学年各クラスでよりよいものを創出しようと時間と力を重ね、そのことに夢中になったり関わったりしながら、最高の“いま”を実感してほしいと思っています。
校長 橋詰 忍