「人とつながる音楽家」を目指して
音楽科
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3月1日(月)
10時より本校ホールにて、第11回卒業証書授与式を挙行し、72期生40名が本校を巣立ちました。厳粛ななかにも温かい祝福の雰囲気に包まれ、卒業生たちは凛々しい姿で晴れやかに式に臨んでいました。
コロナ感染拡大防止のため、ご来賓の皆様からの祝辞をなくすなどの措置がいくつかとられ寂しい部分もありましたが、校長先生の式辞や送辞・答辞がみな、それぞれの思いのこもったメッセージとなって、参列者の胸に響き、心に残る卒業式となりました。
以下は、校長先生の式辞の抜粋です。
(前略)
ただ今、第七十二期生四十名に卒業証書を授与いたしました。めでたくこの日を迎えた卒業生の皆さんに心からお祝いの言葉を贈ります。また、これまで本校教育にご理解ご協力を賜り、無事この卒業という日を迎えられました保護者の皆様方にも、心よりお祝いを申し上げます。本日は大学入試受験のため、式に出席できない生徒もおりますが、ここでその卒業を祝福し、それぞれの皆さんの健闘を祈りたいと思います。
さて、卒業生の皆さん、今年は皆さん方にとって、たいへんな一年だっただろうと思います。大学入試改革の初年度、新しい入試がどのように行われるのかが明確でない中で受験を迎えなければならない。しかも新テストにおける記述式問題の導入の途中での断念、英語の資格試験採用の見直しなど、当事者にとってみれば不安でたまらない気持ちではなかったでしょうか。そして、この一年は、三月からの三か月にわたる学校の休業があり、友人や先生方にも直接会うこともできず、家から外へ出ることもはばかられる状況の中で、落ち着いて勉学に向かい、音楽と向き合うことすら難しかった時期もあったのではないでしょうか。感染へのおそれは世界中に広がり、日常生活ですら思うままにできない日々が続きました。世界では、毎日毎日感染者が数万人単位で増加し、感染者が病院にあふれ、死者を受け入れる施設もない、といった映像が毎日のように報道された時期もありました。
しかし、そのような極限の状態の中で、人々の心を支え、励まし、勇気づけたものがいくつかありました。強い使命感のもと、命を賭して危険な感染症に日々立ち向かい、治療に介護に奮闘しておられる医療関係の皆さんがおられました。そしてその方々に感謝の気持ちをささげ、少しでも励まそうとして演奏された「音楽」がありました。音楽の世界も、ひところはすべての演奏会が中止となり、感染拡大の恐れがあるということで、集まって練習することすら許されない時期がありました。一年たった現在でも様々な制約の下で音楽を演奏せざるを得ない状況が続いています。しかしながら、一歩も外に出られない、とあるヨーロッパの街角で、自宅の2階の窓から楽器の演奏や歌を披露した人たちがいました。こんな時だからこそ、家に閉じこもっている人たちに音楽を届け、心を和ませ、少しでも安らかに過ごしてもらいたいとの小さな試みでした。それが話題になり、SNSで取り上げられたことから、様々な音楽家や音楽愛好者が動画配信を通じて音楽を届けることが広がりました。特に危機に日々直面している医療関係者を励ます音楽を届ける行いが、世界中で行われるようになりました。その演奏に涙を流しながら感動し、毎日の様々な苦難を乗り切る勇気をもらった、と語る医療関係の人々が多くいました。まさに、これこそが「音楽の力」ではないでしょうか。音楽は、自分が演奏して楽しむだけでなく、聞く人に感動や、安らぎと勇気を与える。人の命や生き方に影響を与える、そんな大きな力があることを確認することができた一年でもありました。
さて、卒業生の皆さん、あらためまして本校の教育目標である「人間尊重の精神を基盤に、心豊かで自立した人間を育てるとともに、将来幅広く音楽専門家として活躍し、文化の発展に貢献できる人を育成する」という目標は、皆さんの中で、どのくらい達成されたでしょうか。三年前、入学した当初の自分と、今ここにいる自分とを照らし合わせたとき、皆さん方の堀音での三年間の努力の成果が明らかになります。音楽科や普通科の授業、各種の演奏会や様々な行事、取組の成果が、皆さん方の今の姿としてここにあります。もちろん、地道な努力がすばらしい結果となって表れたこともあれば、これ以上できないくらい努力したにもかかわらず、残念な結果となり忸怩(じくじ)たる思いをしたこともあったかもしれません。また、友人との関係や、先生との関係がうまくいかず、思い悩んだこともあったかもしれません。しかし、うまくいったことも思い通りにならなかったことも、それが皆さん方の三年間であり、皆さん方の成長の一つの過程であったことに違いはありません。「成功は人に自信を与え、失敗は人に成長を与える」といいます。将来、音楽とどのようなかかわりを持つかはそれぞれ違っていても、音楽を専門的に学んだものとして、これからの日本の、世界の文化の発展に貢献できる心豊かな音楽人となるための素地を、ここで学んできたことだけは、間違いありません。本校在学中に、自分の音楽と真摯に向き合い、折に触れて自分や周りの人たちの才能の違いに気づき、悩み、自らの限界を感じ、努力することの意味に疑問を抱いた人もあるかもしれません。しかし、たとえ才能のありようはそれぞれでも、自分を信じ、自分の未来を展望し、努力をし続ける人だけがその成果を享受することができるのです。皆さん方はこれまで保護者の皆様をはじめ、小さいころから音楽を指導していただいた先生方や、ここでお世話になった先生方など、多くの皆様のご指導や支えがあって今日この日を迎えています。それらの皆様への感謝の気持ちを持つことは当然ではありますが、卒業を迎えた本日から、自立した一人の大人として、自らの足で立っていかねばなりません。もちろん、これからも多くの先生方にご指導を仰ぐことにはなりますが、一番大切なことは、自分のことは自分で考え、主体的に行動し、そしてそこからくる結果についても自らが潔(いさぎよ)く引き受けるという、大人としてのあたりまえの責任を果たしていくことではないでしょうか。十八歳選挙権や成人年齢の引き下げが実現しようとしている現在ですが、法的にも社会的にも高校を卒業した皆さんには「自立」が必要欠くべからざるものであることを、しっかりと心にとどめておくようにしてください。
(後略)
令和三年三月一日
京都市立京都堀川音楽高等学校長 村上 英明