「人とつながる音楽家」を目指して
音楽科
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1月18日(木)5,6限
2年生を対象に、「認知症サポーター養成講座」を開催しました。
講師は、本校学校医で「認知症サポート医」でもいらっしゃる辻輝之先生と、臨床音楽士で京都医療センター脳神経内科で音楽療法に携わっていらっしゃる飯塚三枝子先生です。司会は、本能地域包括支援センター長の寺本珠眞美様がご担当くださいました。
前半は、辻先生にご講演いただきました。【写真上】
まず、若年性認知症を発症された66歳の女性と30代の娘との暮らしの様子を追ったニュース番組の特集の一部を視聴。辻先生は、「『かわいそうに』というシンパシー(Sympathy:同情、感情移入)ではなく、エンパシー(Empathy)を。エンパシーとは『自他の区別を前提として、意識的.能動的に他者の視点に立ち、他者の立場に置かれた自分を想像することに基づいた相手理解のこと』で、訳語をあえて充てるなら『自己移入』です」と、認知症や認知症の人について正しい知識を持ち、正しく理解することの大切さを説かれました。
「それではここで、問題です!これから、3つの言葉を覚えてもらいます。さくら・ねこ・電車。…次は計算問題です。100-7は? 93-7は? …今日は何年何月何日何曜日ですか?」などと出題され、2年生は声をそろえて元気よく答えていくと、「さて、一番最初に覚えた3つの言葉はなんでしたか?…実はこれ、認知症のテストなんです。」というように、体験をまじえながら、認知症の中核的な症状を次々に紹介してくださいました。
そして、辻医院でのオレンジカフェや地域の取組「チーム上京」などを紹介。「欧米ではこの50年、認知症を「敵」とみなし、それを「征服」するという発想で取り組まれてきて、ようやく認知症の進行を遅らせる薬が出てきた。が、認知症の症状は人それぞれであり、高齢化がもっと進んでかなり多くの人々が認知症になるならば、それは敵ではなく、個々人の個性と見ることもできるのでは。ケアをすることは、一方的なお世話や手助けではなく、双方向の営みだと強く感じます。私は、養老孟先生の「世界は違いでできている」という言葉が好き。昨年6月に成立した「認知症基本法」にあるように、認知症や認知症の人に関する正しい知識と理解を深め、いっしょに共生社会の実現を目指しましょう。」と締めくくられました。
後半は、飯塚先生から、認知症の人に対する音楽療法について伺いました。【写真中】
はじめの自己紹介では、京都市立芸大をご卒業され、ヴィオラ奏者としても活動なさってきたとのことで、“後輩”に話すように親しみのこもったメッセージをいただきました。「外国の演奏家たちにはボランティア活動の義務がある。海外での演奏で楽団員たちと話すと必ずボランティアの話が出る。どんな場所や条件であっても、それにあわせて音質や音量を変えて演奏する。また、兵役でたとえば1年間、楽器に触れない人もいるが、みんなそれを受け入れて、音楽ができるとなれば場所を選ばず音楽を表出する。そうやって頑張っている。」と。
そして、現在取り組んでおられる「認知症患者さんのための音楽療法」について、実際の様子の動画をまじえながらご紹介くださいました。そこからは、患者さんお一人お一人の認知症の進行具合や音楽の嗜好にあわせて、ご家族との思い出のなかの音楽などを探りながら、患者さんの回想を引き出す音楽を探し当てる様子が見てとれました。飯塚先生のもとに長く通っていくうちに、徐々に視線が上がり、歌を口ずさんだりリズムをとって体をゆらしたりできるようになり、明るい表情になっていく患者さんの姿に、2年生たちの目はくぎ付けに。音楽が人の心や身体に大きく作用することを教えられました。
「私は受験のときに、どういう音楽家になりたいかと聞かれて、“オケに入りたい”などと答えた。次に、どういう人間になりたいかと問われて、はっとした。どういう人間でいたいのか、そこに音楽をあてはめて考えた。音楽ありきではなく、なりたい自分・未来の自分のために音楽をがんばろうと思った。だから、みなさんも今はまず、音楽の技術を磨いてください。そして、音楽でもってどんな人として生きていきたいか、考えていってください。しんどいことも多いと思うが、相手の気持ちといっしょに音楽をすることは素晴らしいですよ。また、どこかでお会いできるのを楽しみにしています。」と飯塚先生。
終了後には質疑応答もありましたが【写真下】、そのあとも先生方のもとに、質問や感想を伝えに何人もの生徒が集まっていました。
お二人の先生のお話から多くのことを学ばせていただいた90分でした。
辻先生、飯塚先生、本当にありがとうございました。