「人とつながる音楽家」を目指して
音楽科
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式 辞
東門の紅梅が、かぐわしい香りを漂わせ、はやくも満開を過ぎようとしております本日、京都市教育員会学校指導課の皆様、PTA音友会会長様ならびに役員の皆様、京都・堀音同窓会会長様、堀音父母の会会長様、そして 城巽自治連合会会長様のご臨席を賜り、京都市立京都堀川音楽高等学校第九回卒業証書授与式を挙行できますこと、厚くお礼申し上げます。
ただ今、70期生39名に卒業証書を授与いたしました。めでたくこの日を迎えた卒業生の皆さんに心からお祝いの言葉を贈ります。「卒業おめでとう」
また、本日は大学入試受験のため式に出席できない卒業生もいますが、健闘を祈り、卒業を祝福したいと思います。
今回、卒業生のみなさんにお渡ししました卒業証書は、前校長の山脇護先生に揮毫をお願いいたしました。山脇先生は君たち一人一人の顔を思い浮かべながら名前を書いてくださったと思います。大切にしてください。
さて、卒業生の皆さんにとって京都堀川音楽高校での3年間はいかがでしたでしょうか。音楽という共通の目標をもった仲間が集まり、互いに切磋琢磨しながら強く、深い絆をつくりあげてきたことと思います。私は1年間だけの関わりでしたが、君たちの活躍は強く印象に残っています。大変な緊張感の中での公開実技試験では、君達全員の渾身の独奏・独唱を聴きました。一人一人の音楽に賭ける思いを肌で感じ、感動しました。オーケストラ定期演奏会では熱気あふれる京都コンサートホールで、大先輩である韓伽耶さん(※注)のピアノに触発されて、持てる力を最大限、いやそれ以上のものを発揮し、70周年にふさわしい歴史的な名演奏を生み出してくれました。ほかにも、学園祭での「エリザベート」の、迫力ある舞台装置や心揺さぶる編曲による生演奏に彩られた迫真の演技と歌声……、数多くの感動を忘れることができません。
君たちはこの3年間で音楽の専攻実技力や専門知識、学科の学力、社会人として生きて行くための知識や教養を身につけ、大きく成長したと思います。その成長は、保護者の皆さまや地域の皆様、教職員など多くの人々に守られ育まれたことを忘れないで下さい。
今から君たちは、自立して社会に飛び立っていかねばなりません。今まで学び、身につけてきた力をさらに磨いて飛躍してくれることを期待しています。
まもなく「平成」の時代が終わろうとしています。この30年で人々の生活環境は大きく変わりました。30年前といえば、ちょうどパーソナルコンピュータが普及しはじめた頃です。ブラウン管のディスプレイだった当時のパソコンに比べ、今や、はるかに高性能な処理能力を備えたスマートフォンを多くの人が持ち歩くようになりました。インターネットの急速な普及と共に、情報過多と思えるほど様々な情報を得られるだけでなく、個人が簡単に情報を発信することもできるようになりました。音楽においてはCDを購入して聴くよりも、インターネットでダウンロードするのが当たり前になっていますし、演奏や歌っている姿の動画や音源を個人が気軽に世界に向けて発信できるようにもなっています。ある意味便利で豊かな時代になったといえます。しかし一方で、様々な情報を安易に発信することによる弊害や、人間関係のトラブルなど、新たな課題が出てきています。日ごろから君達に伝えてきましたが、一人一人がマナーやモラルを守り、社会人として責任ある行動を心がけて、自分と共に、他者を守ることのできる人になってほしいと思います。
これからさらに、コンピュータ、人工知能の技術革新が進む中で、10年から20年後には現在ある職業の40%以上がロボットに取って代わられるとも言われています。また、現在の国際情勢を見てみると、変化が激しく緊張が高まっています。将来の予測が困難な時代を今まさに迎えていると言えますが、実はこれまでも予測された道筋をたどってきたわけではなく、人類は様々な局面を乗り越えてきたのです。
1970年、コンピュータが非常に高価で大変大きく、大企業であっても限られた部署にしかコンピュータを持ちえなかった時代に、パーソナルコンピューター、つまり個人が一人一台のコンピュータを持つ時代が来ると提唱し、パーソナルコンピュータの父といわれたアメリカ合衆国の計算機科学者アラン・カーティス・ケイが「未来を予測する最善の方法は、自らそれを創りだすことである」と述べています。
個人の人生における未来においても、人類が向かっていく未来においても、レールが敷かれているかのごとく未来が決定づけられていて、それに従って進んでいるのではなく、今を生きる個人の夢や希望や期待、集団としての意思決定や方向付けによって、一日また一日と未来が創られていくのだと思います。
ですから、次のことを君たちにぜひ伝えたい、お願いしたいと思います。
君たちが一生懸命に学び、追い続けている音楽は、言葉や国の違いを超え、人の心の中心部に直接訴える力を間違いなく持っています。いかに人工知能が発達し、ロボットが演奏したり歌ったりしたとしても、感心することはあっても、心からの感動を生む事はないでしょう。感情を持った人間が永い時を費やして学び、練習に励み、技術、感性、表現力を磨き、自身の生き様や夢や希望、思いを背景に演奏し歌うからこそ、人びとの心を癒やし、喜びや希望、勇気やエネルギーを与えることができるのです。
このような難しい時代であるからこそ、音楽を追い続けている君たちには、自分を信じ、愛するのと同じく、是非とも多様な他者を尊重して互いに助け合う心を持ち、世界のどこかで愛と平和の思いを込めて活躍して欲しいと切に願います。
最後になりましたが、保護者の皆様に一言ご挨拶申し上げます。本日はお子様のご卒業、誠におめでとうございます。今日までお子様の成長を支えて来られ、卒業式の晴れの日をむかえられ、感慨もひとしおのことと存じます。お子様は大きく成長されましたが、まだまだ支援が必要な状況もあるかと思います。温かく見守っていただくとともに、高みへ向かって背中を押してやっていただきたいと存じます。ご入学以来、本校の教育活動にご理解ご協力をいただき、様々ご支援を賜りましたことに、心より感謝申し上げまして、私の式辞とさせていただきます。
平成31年3月1日 京都市立京都堀川音楽高等学校長 江草 健
※ 韓伽耶さんの「耶」は正しくは「イ」(にんべん)に「耶」です。