美術を通して、これからの時代を生き抜く力を磨く!
美術工芸科
〒604-0902 京都市中京区土手町通竹屋町下る鉾田町542[MAPを見る]
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鴨川の水音があかるくなり、河畔の桜が今を盛りに咲き誇る今日の佳き日、京都市教育委員会をはじめ、PTA役員の皆様、本校にご支援をいただいております交友会、京都パレスライオンズクラブ、銅駝自治連合会のご来賓の皆様、そして多数ご保護者の皆様のご臨席を賜り、平成28年度京都市立銅駝美術工芸高等学校、第37回入学式を挙行できますことは、誠に大きな喜びであり、本校教職員を代表いたしまして、心よりお礼申し上げます。
ただ今、90名の新入生の入学を許可いたしました。まずは、新入生の皆さん、ご入学、おめでとうございます。教職員一同皆さんを、大切にお迎えしたいと思います。
保護者の皆様、本日はお子様のご入学、誠におめでとうございます。お子様のご入学を心よりお祝いいたします。これからの3年間、教職員一同、力を尽くして、お子様の成長を支援してまいります。ご理解、ご協力を賜わりますようお願い申し上げます。
本校は、明治13年、1880年に、日本最初の画学校「京都府画学校」として創立され今年で136年、美術工芸科単独の高校として長い歴史と深い伝統をもつ学校であり、本校を卒業された諸先輩方は、美術界、産業界ほか、各方面で活躍されておられます。この歴史と伝統は、本校の生徒が、志高く意欲をもった旺盛な学びを続けてきたこと、そして情熱をもってその成長を支援し、導いてきた教職員の教育の営みがあったからであり、さらに、保護者の皆様、地域・関係団体の方々、諸先輩方のあたたかいご理解とご協力があったからこそであります。
皆さんは、本日、晴れてこの歴史と伝統のある学校の生徒になりました。銅駝美術工芸高校の生徒としてしっかりとした自覚と誇りをもって、新たな歴史を築いてほしいと思います。高校生活は、社会で自立して生きていく大人になる準備期間です。これまでの義務教育とは異なり、自己選択、自己決定を求められます。また自己理解、他者理解を一層深める時期でもあります。自らを鍛え、他者と言葉を交わし、大人への階段を上って下さい。
皆さんの新しい始まりの日、校長として2つの「ひらく」ということについてお話しします。
一つ目は閉じた状態を「ひらく」、「開」(カイ)という字の、「開く」です。皆さんは入学すると、新しい教室の扉を開き、新しい教科書や参考書を開き、画材を開き、授業開きとなります、「開く」ことで新しい活動が始まり、新しいつながりが出来ます。中学校まで、毎年4月にはそのような新鮮な出会いと経験を重ねてきたでしょう。高校に入学した皆さんに、私が特に求めたいことは「自分を開く」ということです。これまでの生活でつながりをもっていたのは、小学校、中学校のある、地元を中心にした限られた範囲だったと思います。その中で、皆さんなりの人間関係をつくり、活動をしてきました。居心地の良い関係ばかりではなく時には辛い、悲しい思いをしたかもしれません。学校では好きな科目、得意な科目に対して、嫌いな科目、苦手な科目もあったでしょう。様々な思い出、様々な経験を抱えてて高校へ入学してきたことと思いますが、一旦それはあなたの体からおろしましょう。大切なことは、忘れるのではなく、おろすのです。なぜなら、そのつながりや出来事がどんな中身であれ、そのことを経験し、悩み、乗り越えて今のあなたが存在するからです。なかったことにせず、その時の自分を否定せず、ここまで成長した今のありのままのあなたをまず大切にしましょう。そして、これまでまったく知らなかった90名の仲間、初めて付き合いが始まる先生や先輩に対して、先入観をもたず、自分を閉ざさず、これまでの自分にこだわらず、自分を開いて接してほしいのです。科目の好き嫌いや、得意不得意もいったんリセットし、興味関心の入口を広げ、新鮮な気持ちで学び始めて下さい。
そして二つ目の「ひらく」。これは何もない荒れ地を切りひらく、「拓」(タク)という字の「拓く」です。皆さんは、これから銅駝美術工芸高校の生徒として「自分を開く」ことで、人のつながりや知識・教養、ものの見方や考え方、感性やスキル、創造力や表現力を広げることができます。そして、皆さんの心もからだも能力もこれまでよりもっともっとしなやかさや深さ、たくましさをつけることができます。つまり「自分を開く」ことが、これまでの自分を変え、自分を成長させ、「自分の未来を拓く」ことになるのです。
京都造形芸術大学の千住 博さんは、『わたしが芸術について語るなら』という書物の中で、「芸術とはイマジネーションをコミュニケーションしていくこと」「自分の考えを何とかして伝えたいという行動が生むもの」であるとし、「芸術とふれあって自分と異なる考え方の人を認め、いろいろな意見があるのだなということを知り、しかし私たちは皆同じ人間なのだなということにも気づいて心を通わせる」ことだと述べています。
美術を学ぶことを志して入学してきた皆さん。本校は美術を学ぶだけでなく、幅広い物事に出会い、仲間や先生と様々なコミュニケーションをとり、自分を高め、「自分の未来を拓く」力を身につける学校です。本校での一日一日が未来のあなたをつくります。
最後に、谷川俊太郎さんの「明日」という詩を紹介します。
ひとつの小さな約束があるといい
明日に向かって
ノートの片隅に書きとめた時と所
そこで出会う古い友だちの新しい表情
ひとつの小さな予言があるといい
明日を信じて
テレヴィの画面に現れる雲の渦巻き
〈曇のち晴〉天気予報のつつましい口調
ひとつの小さな願いがあるといい
明日を想って
夜の間に支度する心のときめき
もう耳に聞く風のささやき川のせせらぎ
ひとつの小さな夢があるといい
明日のために
くらやみから湧いてくる未知の力が
私たちをまばゆい朝へと開いてくれる
だが明日は明日のままでは
いつまでもひとつの幻
明日は今日になってこそ
生きることができる
ひとつのたしかな今日があるといい
明日に向かって
歩き慣れた細道が地平へと続き
この今日のうちにすでに明日はひそんでいる
今日から始まる銅駝美術工芸高校での生活。皆さんが、「明日」の自分を思いながら、「今日」を大切に生きる、そのような素晴らしい「今日」を一日一日重ねていってくれることを心より願い、式辞といたします。
平成二十八年四月八日
京都市立銅駝美術工芸高等学校長 吉田 功