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普通科・アカデミア科
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令和7年度入学式での学校長式辞を掲載します。
保護者の皆様、新入生の皆さん、ご入学まことにおめでとうございます。そして新入生の皆さんにはもう一言、「ありがとう」とお伝えしたいです。なぜなら、この紫野高校に皆さんが魅力を感じ、ここで学びたいと思ってくれたことを、私は率直に嬉しく思いますし、そう思ってくれた皆さんのお蔭で、この学校は存続できるからです。
さて、皆さんは今日、朝起きて登校し、この体育館に来て席に着くまで、昨日までと、どこか違う感覚がありましたか? どうでしょう? 初めて公共交通機関で登校する生徒もいるかもしれませんね。今宮神社の大鳥居をくぐって学校に着くというのは、どんな感じですか? バスの車窓から見る景色、足元の石畳、道端の草花、中学校までと異なる通学経路で、目にする光景が、新鮮に感じられましたか?
もしそうだとすれば、それが、高校生活が始まったということです。高校生活とはなんでしょう。それは、1コマ五十分の授業を1日7時間、週5日受けるということではありません。それはほんの一部です。高校生活とは何かと問われれば、私はこう答えます。満十六歳を迎える年から満十八歳を迎える年までの三年間、皆さんがその生活空間で見聞し、蓄積するすべての体験の総体であると。
この高校で出会う友人、その友人と学校の内外で過ごす時間や、行う行動、家庭内での出来事、この三年間に学校とは関係ない場で得る体験や、築く人間関係、そうした、高校在学中にあなたの身に起こる全てのことを、ひっくるめて、「高校生活」と言うのだと思います。そして、私は願わくは、あなたのその体験が、豊かで濃密なものであってほしい、と思っています。学校は、あなたの体験が豊かで濃密で、彩りに溢れたものになるための、刺激を得られる場でありたいと思っています。紫野高校にいたから、豊かで濃密な三年間を過ごせた、そんなふうに感じてもらえる学校でありたいと思っています。
とかく、学校でどんな力をつけるか、社会の役に立つか、人の役に立つか、ということが言われがちです。しかし、その土台として、あなたが、通学路で見かけた虫、図書館で偶然手に取った本の一節、友達の何気ない一言、今日の晩御飯のおかずの味、教室の匂い、ウクライナやガザのニュースを見てふと感じた疑問、試験前、明け方まで勉強したときに、外から聞こえる鳥のさえずり、そうしたことを真剣に受け止める姿勢や時間こそ、大切なのではないでしょうか。事物を一心に受け止め、感じる経験を重ねることなしに、身につく力など大したものではないし、社会の役に立つことだけが、人間の存在意義だとも、私には思われないのです。
ところで、あなたが見聞きし、触れ、感じているこの世界は、あるいはこの地球は、この宇宙は、いくつあると思いますか? たった一つでしょうか? もしこの世界に生命が存在せず、色や、形や、音や、手触りを感じてくれる存在が一つもなかったら、果たして世界は「ある」と言えるのでしょうか? 宇宙は、その存在を認識する主体がいなければ、消滅してしまいます。
すると世界は、それを認識する生命の数だけ存在するとも言えませんか? 今、ここに281名の新入生がいれば、その一人ひとりが認識している281の世界があり、その見え方感じ方は一つとして同じではありません。皆さんも将来、いつの日か、生涯を終えるときが来ます。そのとき、世界からあなたが消えるのではなく、七十億、あるいは生き物の数だけある世界が、一つ消滅するのです。
だから、生命は尊いのです。他者の存在は尊いのです。私の願いは、まずあなたが豊かに濃密に世界を感じて、受け止めてくれること。これを私の敬愛する作家は、「積極的感受」と表現しました。そして次に、あなたと同様に、世界を感受している他者を、あなたが尊重してくれること。そこに優劣はありません。
冒頭に、この紫野高校に魅力を感じてくれてありがとう、と述べましたが、本校の一番の魅力はなんでしょうか? たった一つ挙げるとすれば、どんな生徒であっても、自分らしさとして、お互いを自然と受け容れ合うことができる、本校生徒の気風だと思っています。性自認、国籍、発達の特性、出身中学、容姿、キャラその他、私たちにはさまざまな属性がありますが、「紫高(むらこう)だから自分らしく過ごせた」と、嬉しそうに語ってくれて、卒業していった生徒が何人もいました。
最後になりました。あなたたちへの願いは、同時に私の目標でもあります。あなたが豊かで濃密に世界を感じるための刺激を得られる場であること。そして、あなたが自分と同様に世界を積極的に感受する他者を尊重できる場であること。これが私の目指す学校です。ですから、本日、ここに集まった281名が、ああ、紫高(むらこう)はいい学校だったと思って、全員無事に卒業してくれること、これに勝る目標はありません。そして三年後に迎える卒業式の日、式後に学校を出て、本校で出会った友人と存分に卒業を祝い、別れを惜しみ、自宅に戻って家族と話し、最後に一人、布団に入って眠りにつく瞬間、自分の人生において、かけがえのない一つの時代に区切りがついた、そのことが万感の思いで胸に迫るような、そんな高校生活を送ってくれることを願っています。
あなたの貴重な三年間に携われることを、教員として誇りに思います。最後にもう一度、入学してくれてありがとう。
令和七年四月八日
京都市立紫野高等学校校長 景山晋之介